Lisa GUI Prototypes

AVANTI の参考リンク先にある Lisa 開発版のスナップショット集。上と絡めてちょっと気になるのは、NeXT のブラウザ風アプリの画面をして、Mac OS XGUI の片鱗が当時からあったかのような印象を与えてしまうコメント。もちろん言うまでもなく、これは Smalltalk システムに標準のツールの一つであるブラウザ(名前もそのまま)のパクリ(とういかおそらく作者本人が絡んでいるので応用?)であり、NeXT のそれも同じ。けっして、Lisa のプロトタイプ時代に何らかの理由でお蔵入りになったものが NeXT で復活し…云々というたぐいのものではない。単に両者が時と場所を違えても Smalltalk システムというアイデアの供給元は相変わらず共有していた、というだけの話である。これは Win の右クリックメニューの存在(Mac にないものをどうしてパクれたか…という“謎”)にも通じる。

Smalltalk をちょっとかじったことがあり、しかしそれを単にプログラミング言語、あるいはその処理系や開発環境としてだけとらえている人の中には、Smalltalk のシステムブラウザはクラスライブラリのビューワ兼エディタであり、NeXT のそれとは異質である…(よって NeXT のそれは新しい発想)という反論を呈する向きもあるやもしれない。が、「Smalltak イコール、プログラミング言語」という Smalltalk-80 以降、不幸にもひどく矮小化したかたちで世の中に定着してしまった“常識”をなんとか払拭したうえで、そもそもオブジェクトのみで構成される Smalltalk システムで Finder のようなアプリは必要とされなかった(逆に、ファイルシステムに強く依存した Mac において、Finder がたいへん重要な役割を演じ得た)ことに考えが至る程度に「Smalltalk が何者か?」ということを知っていれば、Smalltalk におけるブラウザの位置づけが、NeXT のブラウザのそれとさして変わりないものであることは容易に想像がつくはずで、この手の反論は当を得ていないという意見に賛同いただけるに違いない。もっと踏み込むことで、Smalltalk システムの Lisa/Mac のみならず NeXT/OS X への影響の大きさを改めて知ろうと思う心の余裕を持てるようになれば、それまで霞のように漠然としか知ることができなかった、かの「暫定 Dynabook 環境」を具体的に、かつ身近なものとして Mac の中に見いだせるようにもなるはず。で、先の OS 9 の死により“パロアルト系 OS”(?!)はついに終焉を迎えた…などというトンチンカンなことには少なくとも決してならずにすんだりもする。(実は、仕組みから言えば、Mac OS より OS X のほうがはるかに Smalltalk システムに近く、それゆえユーザーは Smalltalk システムで期待されるのと同種の恩恵に与ることができている…のである)。

他方で、Objective-C や Project Builder にまではこの手の影響が完全には及びきらなかったことから、Macintosh System や Mac OS 時代の「使うは天国、作るは地獄」の払拭に成功したと大々的に宣伝される NeXT/OS X においてすら、なお、ジョブズをして、エンドユーザーと開発者を差別し、あるいはエンドユーザーとしての開発者を軽視する傾向(もしくは開発作業に対する無知、無関心)が見て取れて、これもまた興味深いと言える。

ひるがえって、こうして MacGUI ベース OS としての Smalltalk システムから何をどのように流用したかという写像のようなものを考えるたびに、とことんまで開発者とエンドユーザーに区別を設けようとしない Smalltalk システムの性格を改めて実感させられる。開発者、そして近年 Squeak において奇しくも生じ得たエンドユーザー(非 Smalltalk プログラマ)のいずれからも、かたちは違えてもよく指摘される Smalltalk システムの初手のとっつきのにくさにおいて、MacHyperCard、Newton の醸し出す「初心者への優しさ」に欠けている事実が浮き彫りにされ、これもまた「では、Apple のオリジナリティとはなんだったのか?」というテーマにおいて、たいへん興味深い。