100 ドル PC とアルト


PC Watch元麻布春男の週刊 PC ホットライン「アラン・ケイSqueak で変える教育現場」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1111/hot392.htm


素数に関して、ALTO と比べるところがニクイですね。っても、たぶんアラン・ケイが言ったことをなぞった結果、そうなっただけだと思うのですが(あくまで憶測です。はずしていたらごめんなさい)。



ALTO は、'73 年 XEROX の PARC で、ケイらの要望やアイデア(ビットマップディスプレイ、マウスの採用)を取り込んでチャック・サッカーが、ほぼ3ヶ月で作り上げたコンピュータです。ケイのチームが開発した Smalltalk システムを OS として使用し動作させたとき、いわゆる“暫定ダイナブック”(Interim Dynabook)として機能させることができました。ALTO が世界初の GUI ベースのコンピュータだとか、Macintosh の手本などと言われるのはこのせいです。


ALTO は三世代の改良を経て、千台規模で生産されましたが、残念ながら XEROX の上層部の方針で製品(少なくとも Smalltalk システムを、その OS として標準搭載した“パーソナルコンピュータ”)として量産/販売されることはありませんでした。ただ、ALTO のハードウエア技術の多くは、PARC とは別の研究開発部門が開発した「 Star システム」を搭載した同社の“ワークステーション”に転用/製品化され、そこで日の目をみることになります(ALTO や、それにひっぱられてアラン・ケイまでが“ワークステーション”の開祖のように言われるのはこのこと、つまり ALTO と Star の成り立ちの区分けが難しいことと無関係ではないでしょう)。


ちなみに、ALTO OS と呼ぶべきものそれ自体は、我々がよく知る(後の) DOS プロンプトに似た CUI に過ぎませんでした。また、 ALTO 向けには(Smalltalk システムとは別に、独立した)いくつかの単発の GUI アプリやツールも開発されましたが、それらは文字通りあくまで“ GUI なアプリ”に過ぎず、このことだけではきっと、ALTO をして“初の GUI ベースの OS を搭載したコンピュータ”と称されることはなかったでしょう(ただ、これら GUI アプリは個々に、後の MS Word や Lisa/Mac Draw の手本となるような偉大なアプリでもありました)。


一方、Smalltalk システムにより実現された GUI 環境は、今からしてもかなり本格的なものです。と、いうより、Mac を含めた現在主流の GUI の基本的な特徴である、オーバーラップするウインドウやメニューシステム、それらをマウスポインタを使って操作するスタイルは、'70 年代当時、ALTO を動かしていたまさにこの Smalltalk システムの GUI がその直接の起源です(ビル・アトキンソンによりディスクローズされた、Lisa 開発初期の記録写真がそれを物語っています)。


もちろん、マルチスタイルなテキストエディタ、(後の)MacPaint ライクなペイントソフトも提供されていました。アプリという概念のない Smalltalk システムでは、どこでもテキストのフォントやサイズ、スタイルを変えることが可能でしたから、10年以上あとの Macintosh よりむしろ進んでいたところもあったくらいです。テキスト選択→カット・コピー&ペースト…といった Mac の専売特許のように語られる編集操作のスタイルも、じつは Smalltalk システムで培われたものが(紆余曲折あったものも、結局、Apple が独自にデザインしていたものを破棄して)そのまま採用されたに過ぎません。


http://video.google.com/videoplay?docid=-4365247885921962429
(実際は、知りもしない ALTO の GUI を、つい勝手なイメージで語ってしまいがちなマカは必見!)



Sqeuak システムは、Smalltalk システムとしては後発ながら古典的なところもあり、'70 年代の 同システムの特徴を(最先端の Smalltalk である VisualWorks などと比べると)比較的多く残しています。したがって、単なる Smalltalk 言語処理系ではなく、当時 ALTO を動作させていた Smalltalk システム、つまり、“暫定ダイナブックシステム”の後継であると考えることもできそうです。じっさい、Squeak を全画面表示にして、ベースとなる OS の GUI ウィジェットを隠してしまうと、そのマシンをまるで“ Squeak マシン”であるかのように振る舞わせることが可能です(だから iBook だろうが Let's Note だろうが実は関係ないのですw)。


ただ、Squeak システムの GUI フレームワークに限っては、すでに '70 年代の古典的 MVCGUI フレームワークから脱却して久しく、今は Morphic(もしくは次世代の Tweak )という MacOS X/Cocoa 並に(笑)富豪的なものが使用されているので、100 ドル PC では、スペック的にいかにもツラそう…ですね。これについて Tweak なら、Morphic を間に挟まなければければ軽快に動作するはず…というアンドレアスの言葉(ただし、伝聞)を信じるしかないでしょう。w



Squeak システムが 100 ドル PC でどのような位置づけになるかは分かりませんが、ともあれ、'60 年代の“夢”が、30 有余年を経て、ようやく現実のものとなりつつあることは、とても喜ばしいことです。